小津安二郎の「秋刀魚の味」を見て、秋のさわやかな日に人生の秋を感じる
我が家の夕食には最近秋刀魚の焼き魚が頻繁に食卓に並ぶ。私が大好き
なのもあるが、なにより旬の時期であり値段も安いし、たっぷりと太って脂の
乗った身は実に美味い。ビールにも合うが、ちょっと寒いと熱燗チビチビやり
ながらの秋刀魚はこれぞ日本の秋の庶民のささやかな贅沢。
秋刀魚はちょっとじっくりと焼いて、頭部分は少し固いので食べないが、私は
基本的には骨から内蔵まですべて食べる。骨などじっくり目に焼けばすべて
食べられる。秋刀魚の一番うまいのはなんと言っても内蔵。あのねっとりとし
た噛めば苦みが口に広がる味はもう絶品。熱燗が進むことこの上なし。
というわけで、秋刀魚を食べ終わってからもさらにチビチビと熱燗を飲んでい
ると急に小津安二郎の遺作「秋刀魚の味」を見たくなってしまった。秋の夜に
この孤独と寂寥感が通奏低音として静かに流れる映画は実にしんみりと心
にしみ込んで来る。人生のほろ苦い味わいを巧みに表現したタイトルは絶妙
としか言いようがない。
戦後の小津安二郎の映画主題の最大のものだった娘の結婚話の典型で、
父親が笠智衆に、娘が新人時代の岩下志麻で、笠の飲み仲間に中村伸
郎、北竜二といつもながらのメンバー。この3人がいつものように飲み屋の
座敷で飲んでいるあたりから話は展開して行くワンパターン。しかし、その
ワンパターンの微妙な違いを見るのが小津映画の世界に安心して浸る楽
しみでもあるのだが。
この映画はユーモアのあるやり取りが多いのだが、そのクスクス笑いの裏に
これまでになく孤独感と寂寥感が支配し、やりきれなく面もある。とりわけ
学校時代の恩師ではあるが現在は寂れたラーメン屋をしている東野英治
郎と店を手伝う嫁に行きそびれた娘杉村春子とのシーンには人生の哀歓が
にじみ出ると言うより心にあまりにぐさりと突き刺さる。しかし、その直後には
またまたおじさん3人組が飲んでいるシーンとなり、若い女性と再婚したば
かりの北竜二が死んでしまったという漫才みたいなお笑いがはさまり、苦み
が和らぐなど抜群の編集にもしびれる。懐かしのトリスバーなど飲むシーンが
多い映画なので、見ていると酒の進むこと。
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