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2006年11月10日 (金)

クリント・イーストウッド監督の「父親たちの星条旗」は戦争で戦った兵士たちへの悲しみのレクイエム

昨日は「デスノート the Last name」に続いて見たのが映画館に映画
を見に来た本命の「父親たちの星条旗」だ。クリント・イーストウッドが硫
黄島の激戦をアメリカサイド、日本サイドから見つめてそれぞれ2部作と
して監督した大作。年を重ねるほどますます監督としての力量を上げて
来ているイーストウッドが監督専業で70歳代半ばで撮影したというだけ
で彼のファンとしては期待が膨らむ。デスノートのお口直しにしてはあま
りに重すぎるのだが。館内は若い客ばかりだったデスノートに比べてま
るで年齢構成が違う。60歳以上のおじさんがほとんどなのだ。若い女性
がほぼゼロ。戦争映画を見に来る客ってのは年寄りだけなのか。でも、客
の入りはデスノートよりはグンと良かったけどね。それにしてもね戦争の
悲惨さ、虚しさ、それを利用するだけの政治家たちの薄汚さなどを知って
欲しいのは若い人たちなのだが。今の日本はそういう若い人たちが売国
政治屋の小泉やアベシンゾーに簡単に騙されてしまう投票行動を取って
しまい、自分たちが自分たちの生命と財産を危うくする政治体制を作って
いるのに気づきもしない現状では、この手の映画を見て日本の戦後60年
の平和の有り難さを実感してほしいと思うのは無理なことのようだ。

イーストウッドの戦争映画としては20年ほど前に出演・監督した「ハート
ブレイクリッジ」以来だろう、それ以前の「戦略大作戦」にしても「ブレイ
クリッジ」にしても笑いの要素さえ入ったアクション映画であり、戦争は単
に素材。しかし、今回は太平洋戦争そのものを真摯に見つめるシリアス
なドラマ。しかもアクションヒーローを演じて来たイーストウッドがヒーロー
像自体を否定する映画を監督するのだから時代は変わる。そのうえ、制
作者にはイーストウッドとスピルバーグという異質とも言える二人が並ん
でクレジットなんて映画を見続けて来た映画好きには感慨ひとしお。

脚本の一人は「クラッシュ」「ミリオンダラー・ベイビー」のポール・ハギス
で、かなり輻輳する構成の話を作り上げている。激戦の舞台となった硫黄
島を見下ろす戦略拠点擂鉢山の山頂に硫黄島制圧のシンボルとなる星条
旗を掲げる6名の兵士が写った有名な戦争写真に隠された話が描かれる。
6人の兵士の一人だった衛生兵を父に持つジェイムズ・ブラッドリーの書いた
ノンフィクションが原作のいわゆる実話ものだ。

星条旗を掲げる有名な写真は実は日本兵が近くにいない状態になった時
に行われたもので、実際にはその直前に日本兵と銃撃戦をしながら写真とは
別の兵士たちが星条旗を掲げていた。その星条旗は視察にきた政治家か誰
かが記念品として欲しがったために取り替えたものだったのだ。映画はその模
様を描くとともに、写真に写った兵士も実は名前が一部違ったことなどを取り
上げて行く。そのために、その写真を利用して戦意高揚を図り戦時国債の売
り上げキャンペーンに利用される生き残った3人の兵士の苦悩がドラマの中心
となる。

暗闇を強調した映像が大好きなイーストウッドらしくこの映画はいつも以上に
彩度と明度が落とされていて、色だけでも全編にペシミスティクな感情が漂い
続ける。そして、戦闘場面さえどこか突き放したようなクールで淡々とした描写
で、腕や頭部が吹き飛ぶような凄まじい描写も戦争映画としては異例の冷静さ
が満ちている。そこには戦意高揚など微塵もない。地を這い、銃弾をかいくぐり、
傷ついた戦友を助けるのに必死な兵士たちの生への渇望と戦うことの虚しさが
痛いほど伝わって来る。そして、その兵士の内面の苦悩も理解しないで政治的
宣伝の道具としてしか利用しない政治家や役人。これは敵味方なく戦った兵士
たちへの悲しみのレクイエムだ。静謐な映像がその哀しみを倍加させる。

フラッシュバックを多用した時間軸が錯綜する展開。実物の兵士に似た俳優の
起用とあいまって識別しにくい人物。歴史的背景の説明をほとんどしないことか
らくるわかりにくさなどもあるが、太平洋に展開する膨大な数の米軍戦艦のスペ
クタクル映像なども含め充実した映画になっている。日本サイドから見た続編
「硫黄島からの手紙」の12月の公開が楽しみだ。イーストウッド監督の映画は
これまで日本で大ヒットしたこともないので2部作ともちょっと厳しいだろうけど
頑張ってほしいね。

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