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2006年11月11日 (土)

「男はつらいよ知床慕情」を見るが、やはりこのシリーズは基本的に肌が合わない

最近毎週土曜日の夜にNHKBSで男はつらいよシリーズの放送をやって
いるようで、今夜は1987年製作のその第38作目「男はつらいよ
知床慕情」の放送だった。基本的にはこのシリーズ自体にほとんど興
味がないのだが、たまには見てみるかと見てみたが、やはりどうも肌
に合わない。

だいたい、ダボシャツに毛糸の腹巻きに背広の着流し風、そして雪駄
スタイルのおっさんがそばにいたら普通の感覚なら敬して避けるだろ
う。しかもそのおっさんの商売が日銭稼ぎのテキ屋だよ。そのおっさ
んがわがまま、独善的な生き方で、家族の心配も何のそので、ちょっと
気に触ったことがあるとすぐに拗ねるわ毒舌を吐くわで、家族は彼が
家にいるといつもピリピリしている。そんな基本的な設定にまったく
なじめないというか、その世界にまったく入れないのだ。

なのに、このそばにいたら殴りたくなるような男が誰からも善人扱い
され、時にはあのほとんどヤクザまがいのスタイルに喋りなのに先生
扱いされるなんていうシュールな感覚を越えてしまうような話にまで
なって来ると、そのあまりのリアリティのなさに飽きれるばかり。こ
のシリーズを褒める人は日本の良き時代を感じるとかなんとか言うけ
れども、こんなおっさんに良き時代も何も感じるわけないがな。

というわけで、このシリーズも数本で終わっていれば良かったし、渥
美清自体ももっと多様な映画で活躍できただろうに、本人が一番無念
だったのじゃなかろうか。この程度の映画を楽しみに正月、夏とこれ
だけしか映画を見ないような人を山のように作り出し、日本映画の活
性化を阻害しただけでもこのシリーズの罪は重い。木下恵介や小津安
二郎の映画に日本のヌヴェルヴァーグとさえ言われた映画を生み出し
た松竹はこのシリーズにこだわり過ぎ、新しい映像的創造を一切放棄
してしまうような形になり、シリーズ終了とともに映画会社の存在自
体を消滅させたのと同等になったのなんてまさにこのシリーズが日本
映画を衰退させた張本人だった証左。

その肌に合わない感触は今回の「知床慕情」でも変わりはない。基本
的にはドスケベで女とやりたいはずなのにその本音を隠す偽善性には
いらつくばかりだ。まあその偽善性は原案・脚本の山田洋次の本質か
ら来るものだろう。偽善とはほど遠い浅草芸人出身の渥美清にとって
は寅次郎を演じること、それもほとんどそれだけしか演じない状況に
なったことは本当に楽しかったのだろうか。本音を一切明かさずに逝っ
てしまった渥美の心を知ることは今となってはかなわないが。

こんなに毒も何もない映画を見ていたら、思い切り辛辣で毒のある映
画を見たくなり、ビデオ棚へ。そこでとりあえず選んだのがかなり大好
きなクストリッツァ監督の「パパは、出張中!」と「アンダーグラウンド」
の2本。酒でも飲みながらこれから見るかな。

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