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2008年3月17日 (月)

暴力と死の世界を淡々と描く映画「ノーカントリー」

今日は3年ちょっと前に手術した脊椎狭窄症の定期的な術後診
察。月曜日と言うこともあるし、暖かいこともあり整形外科は
いつも以上の激混み。一応予約制なのである程度時間は読める
のだが、それでも病院で待つのは疲れる。

診察終わって、昼食食べて、書店をブラブラしていたら映画を
観たくなり、先週土曜日から公開になったばかりのアカデミー
賞で作品・監督・脚色・助演男優賞4部門受賞の話題作コーエ
ン兄弟監督の「ノーカントリー」を観て来た。

「赤ちゃん泥棒」からお気に入りの監督なのだが、今回のは全
編支配する静謐感が心の闇をより鮮やかに見せる。毎回独自の
世界観と映像感覚で魅せるコーエン兄弟の暴力と死がテーマの
映画が作品賞というのも現在のアメリカの時代相を反映したも
のだと実感させるもので、暴力とあっけない死が日常の世界を
シンボリックに描く冷え冷えとした感触が独特の味わいで、受
け付けない人には忌避反応も出そう。

その暴力と死に不感症になったかのような殺し屋(助演男優賞
受賞のハビエル・バルデムが怪演)の殺すことの意味さえ喪失
した“目の前にいるから殺す”的殺戮の不条理さ、牛の屠殺用
の圧縮空気銃利用の奇矯さと殺しの効率化。自己のルールに従
って殺すだけだとする殺し屋の無表情、あまりの冷静さ、痛み
さえ感じないかのような不気味さ、恐怖とは裏腹の圧縮ボンベ
を引きずる姿の滑稽さのアンバランスさなどハビエルが体現す
る殺し屋は映画史上でもトップランクの強烈なキャラクターだ
ろう。

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この殺し屋の存在は国際政治の場で自国のルールを押し通し、
軍事力を行使するアメリカのメタファーでもあるのだろうか。

舞台は1980年のメキシコ国境に近いテキサスの田舎町。ベ
トナム帰還兵モス(ジョシュ・ブローリンが好演、「アメリカ
ン・ギャングスター」でもいい味出していた)が荒野で狩猟中
に麻薬組織同志の銃撃戦のあとと思われる死体の山に遭遇し、
鞄に入った現金200万ドルを持ち逃げする。しかし、組織に素
性を知られ、おかっぱ頭の冷酷な殺し屋(ハビエル・バルデム)
の執拗な追跡にあう。その事件を追う老保安官(トミー・リー・ジ
ョーンズ)は、行く先々で無惨な死に直面し虚無感を感じて行
くばかり。

原題が「NO COUNTRY FOR OLD MEN」(日本タイトルでは
意味不明)で、年とった者にもう国はないという意味だろうが、
この保安官がナレーションや劇中で「昔は良かった。今はあま
りにひどい」みたいなぼやきが、淡々と展開される殺しのシー
ンとの間に異化効果を生じる。保安官の諦観ぶりを淡々と演じる
トミー・リー・ジョーンズの渋さが際立つ。

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