暴力と死の世界を淡々と描く映画「ノーカントリー」
今日は3年ちょっと前に手術した脊椎狭窄症の定期的な術後診
察。月曜日と言うこともあるし、暖かいこともあり整形外科は
いつも以上の激混み。一応予約制なのである程度時間は読める
のだが、それでも病院で待つのは疲れる。
診察終わって、昼食食べて、書店をブラブラしていたら映画を
観たくなり、先週土曜日から公開になったばかりのアカデミー
賞で作品・監督・脚色・助演男優賞4部門受賞の話題作コーエ
ン兄弟監督の「ノーカントリー」を観て来た。
「赤ちゃん泥棒」からお気に入りの監督なのだが、今回のは全
編支配する静謐感が心の闇をより鮮やかに見せる。毎回独自の
世界観と映像感覚で魅せるコーエン兄弟の暴力と死がテーマの
映画が作品賞というのも現在のアメリカの時代相を反映したも
のだと実感させるもので、暴力とあっけない死が日常の世界を
シンボリックに描く冷え冷えとした感触が独特の味わいで、受
け付けない人には忌避反応も出そう。
その暴力と死に不感症になったかのような殺し屋(助演男優賞
受賞のハビエル・バルデムが怪演)の殺すことの意味さえ喪失
した“目の前にいるから殺す”的殺戮の不条理さ、牛の屠殺用
の圧縮空気銃利用の奇矯さと殺しの効率化。自己のルールに従
って殺すだけだとする殺し屋の無表情、あまりの冷静さ、痛み
さえ感じないかのような不気味さ、恐怖とは裏腹の圧縮ボンベ
を引きずる姿の滑稽さのアンバランスさなどハビエルが体現す
る殺し屋は映画史上でもトップランクの強烈なキャラクターだ
ろう。
この殺し屋の存在は国際政治の場で自国のルールを押し通し、
軍事力を行使するアメリカのメタファーでもあるのだろうか。
舞台は1980年のメキシコ国境に近いテキサスの田舎町。ベ
トナム帰還兵モス(ジョシュ・ブローリンが好演、「アメリカ
ン・ギャングスター」でもいい味出していた)が荒野で狩猟中
に麻薬組織同志の銃撃戦のあとと思われる死体の山に遭遇し、
鞄に入った現金200万ドルを持ち逃げする。しかし、組織に素
性を知られ、おかっぱ頭の冷酷な殺し屋(ハビエル・バルデム)
の執拗な追跡にあう。その事件を追う老保安官(トミー・リー・ジ
ョーンズ)は、行く先々で無惨な死に直面し虚無感を感じて行
くばかり。
原題が「NO COUNTRY FOR OLD MEN」(日本タイトルでは
意味不明)で、年とった者にもう国はないという意味だろうが、
この保安官がナレーションや劇中で「昔は良かった。今はあま
りにひどい」みたいなぼやきが、淡々と展開される殺しのシー
ンとの間に異化効果を生じる。保安官の諦観ぶりを淡々と演じる
トミー・リー・ジョーンズの渋さが際立つ。
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